2015年2月

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先日、この規制案についてパブリックコメントを提出しました。
この資料を見る限り石垣島の昆虫類の置かれている現状は全く調査されていません。
資料には有識者の意見も聞いていると書いてありますが、資料は間違いだらけで有識者や外部の専門家に全く意見を聞いた気配はありません。取り上げられている昆虫種の相対的な重要度を考えると、通常はトンボ類は取り上げられることすらない昆虫種ですが、資料の中には不自然にたくさんのトンボ類が出てきます。おそらく昆虫の知識が全くない素人もしくはトンボのことしかわからない偏った知識の人が自分の独断と偏見で外部の人にヒヤリングすることなくこの資料をまとめと思われます。間違いだらけの基礎資料を基に、学問としての昆虫学を学んだことすらない資質のない人によって取り纏められた今回の規制案は当然破棄されるべきものだと考えています。
昆虫の保全種指定、保護地区の指定および保護地区内の規制について

 私は昆虫学者を20年間、その後も昆虫に関係する仕事に従事しており、石垣島在住16年になりますので、石垣島の昆虫に関する専門家として昆虫に関する事柄のみに限定して意見を述べさせていただきます。今回の石垣市が行っている昆虫の保全種指定、保護地区の指定および保護地区内の規制の決定の仕方は、例えると小学生が学級会で決めた事柄をいきなり国の法律にしてしまうかのような乱暴さを感じています。なぜそのように思えてしまうのかを順に述べて行きたいと思います。今回の保全種の選定基準になっている環境省第4次レッドリストは特に石垣島のような離島の種についてはリストの改訂のために新たに調査を行うようなことは殆ど無く、過去にリストアップされた種をそのまま引き継ぐ作業が行われるだけです。つまりリスト改訂年はH24年で比較的新しいのですが、中身は10年以上前のままです。つまりずっと昔に簡単に調査され現状を全く反映していないものを基準に今回の石垣島の保全種の選定がなされています。なぜ、石垣島の大切な保全種を選定する課程で石垣市が全く調査を行わないで、島外の人が大昔に作った資料を基準に今の石垣島の保全種を決めてしまったのか甚だ疑問です。資料には昆虫類のリスト(3275種)があげてあり、その資料は最新の知見や追加すべき情報を加えたと書いてあります。前回のパブコメでも指摘しましたが昆虫種が200種ほど抜けています。またリストにあげられた種の和名や学名は間違いが多く含まれておりまじめに作られたのか疑問です。また、保全種の選定結果の元になっている評価項目にあげられた種も、現状とは相容れない間違った選定がなされておりなぜそのような判断がされたのか理由が思いつかないぐらいひどいものです。保全種選定の考え方の参考とする評価項目に「既存資料や有識者へのヒアリング等を参考に」と書いてありますが、これだけ間違いがひどい現状を鑑みると、古い資料のみを参考にして、有識者へのヒアリングを全く行ってないと判断せざるを得ません。ほとんど昆虫のことがわからない人が独断と偏見で選定しているように感じます。これはとても恐ろしいことです。動物の中でも昆虫類は種数が多く、石垣島の昆虫の保全種を選定するためには少なくとも30人程度の昆虫学者、昆虫研究者およびアマチュアだけど第一線で調査されている愛好家等に意見を聞く必要があります。保全種の選定課程での種の選定手法等に意見を述べると20ページぐらいになりそうですので、選定された12種について意見を述べさせていただきます。各昆虫種について写真付きで保全種の生態情報等が資料として示されていますのでその順に書いて行きます。
*サキシマヤマトンボについて
本種は生息環境の好みがうるさい種ですが、生息する環境では個体数は決して少なくありません。また、資料には山地の開発やダム工事で分布域が狭まりつつあると書いてありますが、現状ではそれらはすでに終わっており、これからもそれらが行われる予定もないようです。生息環境が脅かされるような状況ではありませんので、現状では保全種に選定される理由は見いだせません。
*イシガキニイニイについて
 本種は生息域がせいぜい富野から山原まででとても狭く密度も低いため本当に守られるべき種であると考えています。
ただ、すでに強制力のある種の保存法でがっちり守られていますので、今更強制力の低い石垣市の保全種に選定する意味はありません。
*イシガキヒグラシについて
 資料には「石垣島では開発が進み、特に天然林更新事業により低木層や草本層の伐採などの影響で個体数が減少しつつある。」ともっともらしいことが書いてありますが全くの間違いで、それらが行われるような場所にはそもそも本種は生息していません。本種は完全に山地性の種で、分布域は開発等の影響は皆無で現状では個体数は安定しており減少の傾向は全く見られませんので、現状では保全種に選定される理由は見いだせません。
*チャイロマルバネクワガタについて
 本種は一年おきに大発生を繰り返すタイプの興味深いクワガタです。分布域も広くまたこの発生パターンはここ10年ぐらい安定しており、特に個体数の減少は見られませんので現状では保全種に選定される理由は見いだせません。
*ヤエヤママルバネクワガタ
 資料には「乱獲用のトラップが毎年各地で多数観察される」ともっともらしいことが書いてありますが全くの間違いです。本種は成虫になると野外では餌を食べません。幼虫期に蓄えた栄養のみで死ぬまで行動します。つまり本種はトラップでは採集できません。なぜ虫のことがわかる人なら誰でもわかるような間違いを資料に載せてしまったのか、こんな恥ずかしい間違いが訂正されることなくネット上で誰もが見ることができる情報として垂れ流されている理由はなぜなのか、このことを書いた人はもう少しまじめに真剣にやっていただきたいと思います。本種は石垣島では西の屋良部岳から北部半島の山まで広域に分布していて、現状では個体数も少なくない普通種です。現状では保全種に選定される理由は見いだせません。
*ヤエヤマノコギリクワガタについて
 資料には「特に開発が進んでいる石垣島で個体数が減少している。石垣島・西表島・与那国島の固有種。」と書いてありますが間違いです。石垣島には本種と成虫の餌や幼虫の利用する資源で競合関係にあるサキシマヒラタクワガタが分布しています。この両種は前者が海岸林や山裾の低地を、後者が山地を主な生息場所として空間的にうまく棲み分けています。ここ10年ぐらい石垣島は海岸線付近が継続的に開発されてきています。そのため本種の幼虫が生育するために必要な朽ち木が、自然の状態で生じるよりも遙かに大量に発生しています。皮肉なことにこの開発の影響で逆に個体数を増やしています。それから本種は与那国島には分布していません。現状では保全種に選定される理由は全く見いだせません。
*イリオモテボタルについて
 本種は1994年に新種記載された後、珍しい種かもしれないということで種の保存法の緊急指定種に指定された経歴があります。しかし、よく調べてみると発生時期が冬であるという特殊性はあるものの、環境適応力が高く山地から畑地はては民家の生け垣まで生息していて個体数も多いことから、保護の指定は解除されて現在に至っています。石垣島では分布域はとても広くまた個体数も多いことから、現状では保全種に選定される理由は見いだせません。ただ、近年、生息地近くの外灯が電球タイプからとても明るいLEDタイプに交換されてきています。弱い光を交信手段とする本種には光害そのもので、繁殖行動が阻害されて今後個体数を減少させる要因になるかもしれません
*オモトウスアヤカミキリについて
 資料に写真が載せてありますが、本種のものではなく全く別種のコウノゴマフカミキリのものです。このようないい加減なことはとても恥ずかしいことなのでやめていただきたい。また資料には石垣島にしか分布していないと書いてありますが、西表島にも本種は分布しています。現状では個体数はとても多く、環境改変の影響を受けにくい場所に生息しているので保全種に選定される理由は見いだせません。
*イシガキトゲウスバカミキリについて
 本種は成虫の発生期が比較的短いために希な種と思われがちですが、発生期の個体数はとても多く、ここ10年ぐらいは安定して発生しています。特に減少傾向は見られないため、現状では保全種に選定される理由は全く見いだせません。
*ベニボシカミキリについて
 本種は石垣島での採集個体を元に記載された種です。西表島にはとてもたくさん生息しています。しかし、石垣島では見たことがありません。石垣島に住んで16年になりますが、本種に関する唯一の採集報告は2002年5月にオモトトンネル内で車にひかれた雌が一頭拾われたのみです。ただこの個体も、西表で採集された個体を生きたまま持ち歩いていたものが逃げ出したのではと疑われています。石垣島での本種の分布は疑わしく、西表島からの個体の偶産かもしれません。
そのような状態の種ですので、保全種にしても意味がないかもしれません。
*アサヒナキマダラセセリについて
 アサヒナキマダラセセリは石垣島と西表島に分布し同種(別亜種)が中国大陸に広く分布することが判ってきて、発見当初に比べればその学術的な価値は著しく下がってきています。また、チョウとしての地味な外観からごく一部の熱狂的なコレクター以外には見向きもされず密猟や採集圧とは無縁の昆虫です。ここ数年は大発生しているようで、於茂登岳の山頂付近からかなり離れた海岸沿いでも普通に見ることが出来る状況です。本種はすでに沖縄県指定天然記念物ですので、あらためて保全種に選定する意味は現状では見いだせません。
*コノハチョウについて
 本種は先島諸島から沖縄諸島、奄美群島の沖永良部島と徳之島にかけて分布しています。天然記念物に指定されているのは沖縄県のみです。資料には「個体数の減少は密猟による捕獲の影響が大きい」と書いてありますが、現状では天然記念物に指定されている石垣島で本種を採集する人はほとんどいなくて、本種が欲しい人は何のおとがめもない鹿児島県で採集しています。資料には本種が減少傾向にあるように書かれていますが、石垣島では発生個体数はとても多く、そのような傾向は見られません。また、本種はすでに沖縄県指定天然記念物ですので、あらためて保全種に選定する意味は現状では見いだせません。
以上、保全種12種について現状と意見を書かせていただきました。それ以外の種2種についてもついでに書いておきます。
*ヨナグニサンについて
 本種は与那国島および西表島では比較的個体数も多く、発生期には容易に観察することができます。しかし、石垣島では見たことがありません。おそらく西表島からの偶産で記録されたものと思われます。
*ヒメフチトリゲンゴロウについて
 資料には「近年、石垣島での記録がない。」と書かれていますが、本種は石垣島では多産しており、普通種なので記録する価値がありません。そのため誰も本種の記録を書かないというのが現状です。もう少しまじめに調べて欲しいものです。
 次に保護地区の選定に関してですが、先に述べたように今回選定された種が選定する意味がないものでしたので、保護地区も選定する意味がないといわざるを得ません。資料には「検討の結果アサヒナキマダラセセリ、ヤエヤママルバネクワガタおよびオモトウスアヤカミキリに係る保護地区は於茂登岳を中心とした地域とした。」と書いてありますが、ヤエヤママルバネクワガタに関しては、このエリアはここ5年ぐらいもっとも生息密度が低い場所になっていますので現状でも意味がありませんし、今後少なくとも10年ぐらいはこの状態が続くような状況です。
 それから保護地区の規制に関してですが、資料には監視活動については何も決められていなくて「連携模索」という文字が躍っています。このような曖昧な体制で、たとえばヤエヤママルバネクワガタが保全種に指定された場合、起こるべき事を予言しておきます。今はどこにでも生息しているいわゆる普通種である本種が、急速に乱獲が進み本当の意味での絶滅が心配される保全種になるでしょう。この予言の根拠は近年同じようにアマミマルバネクワガタを希少な野生動植物保護に関する条例で採集禁止にした奄美大島および徳之島の例を見れば明らかです。このクワガタも特に保護を必要とするほどの種ではありませんでしたが、世界遺産登録をにらみ何かの力が働いて、このシンボリックな目立つ虫がリストアップされるに至りました。ただし、保護のための条例は施行されましたが、奄美大島や徳之島のいろんな山に普通にいる虫ですので取り締まりのしようがありません。採集者の心理として、監視員が本格的に付いて採集出来なくなる前に採れるだけ採っておこうというのが働いているようで、監視がなされていない山では異常なほどの乱獲が行われているのが実情です。これはそのまま石垣島についても当てはまります。石垣島の北の山から西の山まで至るところで乱獲が始まるでしょう。特にこの山にしかいないというような虫ではなくどこでも普通にいるので、すべてを監視するには500人ぐらいの人が必要でしょう。しかも本種の発生期間である10月上旬から12月中旬まで、本種が活動する18:00から3:00までの9時間を監視する必要があります。これらの理由から本種を監視保護する事は事実上、かなり困難なことです。また、保全種への指定により、今まで本種に興味を持たなかった人たちにお金になるかもしれないと、変な気を起こさせる引き金になる可能性があります。本種の市場価格は小型の個体では\300~\500程度であまり高くありません。理由は簡単で個体数が多くどこにでもいる虫だからです。これが保全種になるとプレミア感が生じて、価格は一気に上昇するでしょう。普通に簡単に採集出来る虫が高く売れるようになるということは、今まで本種に興味を持たなかった人を採集者にしてしまう原動力としては十分です。このような理由から、本種のように保全の必要のない種や保全の必要のある種がいたとしても完全な監視保護体制の確立以前に不用意に昆虫を保全種に指定してしまう行為はいわゆる百害あって一利なしです。
 最後に石垣市自然環境保全審議会の全般的な問題なのか、昆虫関係の一部の特殊な人が原因なのか判りませんが、保全種や保全域の選定方法が何か恣意的で現状と離れた結論が導かれているような気がしてなりません。石垣島の大切な生き物たちのランク付け作業は、石垣島にいない人たちの資料を用いて卓上で決めるのではなく、専門家のアドバイスを受けながら、アセス業者もしくは石垣島在住の有志(ボランティア)の協力を得て石垣市自身で行うべき仕事だと思います。